雑記

山田五十鈴の「たぬき」。そのモデルの人生

投稿日:

021935
昨年亡くなった名女優山田五十鈴。女優というより「最後の女役者」と
呼んだほうがしっくりきます。

本領はもともと映画ですが、後年舞台にシフトしていきました。
舞台の代表作は「たぬき」。山田五十鈴が演じるのは、
明治から大正にかけて、寄席に君臨した立花屋橘之助という女芸人。

今でも女の芸人は寄席にいますが、男より下にみられるのが常。
ところが橘之助はその当時にありながら、堂々とトリをとって、
それが当たり前になったというほどの人。芸がそれほどきわだっていたわけです。

この人、色気のほうもきわだっていた。男にもてたというより男が好きだった。
朝寝坊むらくという落語家と結婚しますが、むらくは死去。
その後、橘の圓(まどか)という若い噺家と再婚します。

新居をまず名古屋に構え、その後京都へ家を建てた。
ところが、この京都の新居に移った19日後に、なんと、川の氾濫で
家ともども夫婦で流され、そのまま死んでしまう。68年の生涯でした。

この稀有な芸と生涯を送った芸人を、山田五十鈴が演じたのです。
橘之助は三味線の名手。それを五十鈴は舞台で再現して見せました。

私も実際に見ましたが、それは見事なものでした。あくまで寄席芸人の
役ですから、うまさとともに軽味が身上。

技術の高さはいうまでもありませんが、それよりなにより、
下世話な色気と愛嬌。さらにカリスマ性。山田五十鈴はそれらすべてを、
ほとんど身につけていました。

その舞台を見た数年後に、本家の橘之助の声の録画と遭遇しました。
声が残っていたのです。聞いて感激しました。

うまい。楽しい。今私が聞いても、さっそうといしていてにぎやかで、
ちっとも古いとは思わない。三味線は、ちょっとこんな演奏聞いたことが
ないくらいです。

しかもしかも、私が聞いた録音は、彼女の晩年のもので、その人気を妬んだ
同輩から水銀を盛られ声をつぶされたあとのものだと知りました。

信じられません。水銀を盛るということもですが、それより、
盛られて声をつぶされて、なおあんな声が出るなんて。

山田五十鈴の舞台には、その時代の芸人の影の部分と表の色気と、
二つともが表現されていたと思います。
最後の女役者。女優でありながら、玉田五十鈴は男だったと思えてなりません。

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