相撲の番付にならって、江戸から明治のころまでは、いろいろな分野で「
番付」が作られました。たとえば料理屋。
たとえば噺家。この辺は「なるほど」と思いますが、ほかにも、
金魚の番付や「おもと」(江戸時代にはやった植物)の品種の番付なんて
いうものまであります。
そこで、私は、「個人趣味的、日本女優番付」を考えてみました。
まず東の横綱は「初代水谷八重子」。
今の二代目のお母さんです。新派の大女優。美貌と独特のハスキーボイス。
所作の完璧な美しさ。芸歴の長さ、影響力。どれをとっても際立った、
まさに大女優だと思います。その稀有な味は「はかなさ」。
それまで新派は女形オンリーでしたから、生身の女でしか表現できない
はかなさは、彼女の独壇場だったと思います。
次に、西の横綱。これは迷います。評価のしようがない時代の川上音奴、
松井須磨子はとりあえず「行司役」として別格扱いとすることにして、
迷った末、昨年亡くなった山田五十鈴を選びました。
お父さんは新派の女形。五十鈴は子供のころから父の舞台に出て、
旅回りもしたそうです。
色気ということでは、歴代ナンバーワンでしょう。美人というより、
いわゆる男好きする魅力的なうりざね顔。そしてあのすがれた声。
映画女優として頂点に立ち、後半生は舞台で他の追随を許さない「芸」を見せた。
花柳章太郎、長谷川一男、尾上松緑と、彼女にまつわるビッグネームも群を抜いています。
次に東の大関。これは杉村春子。実はこの人と山田五十鈴と迷ったのです。
文座の、というより日本新劇界のシンボル女優でした。
芸歴の長さと「うまさ」において際立った女優でした。
晩年になっても「青春」の味のうすれない人でした。とくに新派に客演したとき、
初役で演じた「女系図」の芸者小芳は、その立派な顔といい、
情味といい、傑出していたと思います。
こんな調子で書いていくと、「大論文」になりそうなので、あとは順番は無関係で、
ノミネート女優を思いつくままに。川田芳子、栗島すみ子、岡田嘉子、田中絹代、
東山千栄子、市川翠扇、細川ちか子、京マチ子、淡島千景と、きりがありません。
また、出直してまいります。