カイロウドウケツという動物をご存じでしょうか。
カイロウドウケツは、深い海の底に住んでいる海綿の一種です。
人間の髪の毛ほど細い繊維状のガラスが繊細に織り合わされた、
円柱形の籠のような形をしています。
とても美しく、「Venus’ Flower Basket(ビーナスの花かご)」という英名が
ついているのもうなずけます。海辺の観光地で、観賞用に売られていることもあります。
和名のカイロウドウケツは、「偕老同穴」という言葉から来ています。
偕老同穴とは詩経の中の言葉からできた四字熟語で、
「生きては偕(とも)に老い、死後は同じ墓に葬られること」、
すなわち夫婦の結びつきの強さを表します。
結婚披露宴のスピーチなどでたまに使われることもあります。
さて、なぜこのような名前が、この美しい海綿につけられたのでしょうか。
それは、カイロウドウケツの中にはドウケツエビという
エビがカップルで住み着くからなのです。
ドウケツエビは、幼生の時にカイロウドウケツの籠の目から中に入ります。
そして、かならず雄と雌の一対のみで、カイロウドウケツ内部に
住み着いたまま成長し、ついには籠の目から外に出られなくなる大きさになります。
そのまま2匹のエビはカイロウドウケツの中で一生を送るのです。
なぜ外に出られないことがわかっていながらカイロウドウケツの
中に住み着くのでしょうか?
外に出られないということは、外敵が入ってこられる隙間もないのです。
つまり、カイロウドウケツの内部にいる限り、一生外敵に脅かされることなく、
安全に暮らすことができるのです。
それにしても、深い深い海の底、美しいガラスの籠の中で一生を
共にする雌雄一対のエビがいるとは、なんともロマンチックではないでしょうか。